雨泥編


7月31日(日)

フジロック最終日。今年も雨と泥にみまわれた3日間だった。

朝の4時(!)、帰宅するS氏に起こされ、ひとりですごす最後の一日がはじまる。
今年のお目当ては1日目のコールドプレイと3日目のニューオーダー。
一昨日のコールドプレイのライヴは、期待どおり、美しい音を満喫できたすばらしい体験だった。
今日のニューオーダーへの期待もそれに匹敵している。告っちゃう日の中学生男子のように心が浮き足
だっている。
しかし精神の充実に反し、32歳のおっさんの肉体疲労は隠し切れないようだ。
私の有様を見たS氏や、その様子を伝え聞いた(今年は不参加の)Y氏から、
「無理するな。今年のコンディションは最悪だ。勇気ある撤退を」というメールがとどけられた。
そのたび、将来頑固ジジイになりそうな私は「ぜったい最後までいてやる」という決意を固くしていった。
とはいえ残り少ない体力、できることなら少しでも回復しておきたい。
ゴンドラに乗り込み、私は山頂のレストランをめざした。
この年の2月、都市型フェスに参加したときは「便利すぎておもしろくない、ここはコンビニか?」と、えらそうなことをいっていたのだが、いまの私には快適にすごせる人工的な空間が必要だった。

山頂には下とはまるでちがう、のんびりとした雰囲気があった。ゆるいといった方がいいかもしれない。
オフィシャルプログラムに載っているわりにDJのプレイはいつまでも練習モードだし、こどもの数が少ないため着ぐるみのパンダも暇を持て余している始末。
初日にここを訪れていたら早々にUターンしていたにちがいない。
3日目の私は、思う存分身体を休ませることができた。
とくにレストランは、食事もさることながら、トイレの清潔さに感動すら覚えた。(下のトイレは泥と排泄物の区別もつかないほどだった。)
ひさびさに納得の排便をすませ、私は意気揚々と下界へ戻っていった。

しばらくは天気も上々だった。
チャイを飲み、串焼きを食らいながら、大芸道を眺めた(←タイプミスではない)。
しかし会場をうろついていると、この3日間何度も耳にしたあの音が聞こえてきた。
雷鳴である。(ゴロゴロ)
私のテンションは急降下した。ただ1度の着信で見せかけの3目盛から一気に1目盛に落ちた携帯電話の電池のようなものだった。
(逃げるか・・・・)
どう考えてもその方が賢明な選択である。死にはしないが受けるダメージはでかい。少なくとも明日仕事がある社会人が選ぶ道ではない。
雨脚はどんどん強くなっていく。1分1秒とライヴの時間が近づいてくるのと同時に、意思の塁壁も刻一刻と雨に融けていくようだった。

ニューオーダーまであと1時間、ブルーシートをかぶって雨をやりすごしながら「ひとりで来るんじゃなかったな」とつくづく思った。
励まし合うも良し、意地をはりあうも良し。相手の体調が悪ければそれを理由に帰ることもできる。
ひとりではそれができない。あくまで自分との戦いだ。
「もういいじゃない、帰った方がいいって」という優しいメールが届けられるたびにくじけそうになる。
励ましてくれよー。
俺はニューオーダーを観るためにここに来てるんだよー。
よほど手近な人に声をかけて「自分ちょっと弱ってるんで、がんばれっていってもらえませんか?」と頼んでみようかと思ったが、それよりひとりでがまんした方が楽だったのでそうした。

30分前、雨がだんだんと小降りになっていった。
うそだろ? またどうせ強く降りだすくせに。
しかし夜空は雲に隠されることもなく、雨粒のかわりに星の光が地上に降り注いでいた。
半信半疑ながらも5分10分と時間はすぎていく。
いいんすか? もう期待しますよ?

21時30分。天候、晴れ。目の前にニューオーダー。
ロックの神様の粋な(というよりベタベタな)演出にすっかりノックアウトされた日。
「これで来年も来なくちゃいけないよ」と幸せな苦笑を浮かべる。

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