平成猿蟹合戦図 (吉田修一)/朝日新聞出版


 
 
新宿で起きた轢き逃げ事件。平凡な暮らしを踏みにじった者たちへの復讐が、すべての始まりだった。
長崎から上京した子連れのホステス、事件現場を目撃するバーテン、冴えないホスト、政治家の秘書を志す女、世界的なチェロ奏者、韓国クラブのママ、無実の罪をかぶる元教員の娘、秋田県大館に一人住む老婆。
一人ひとりの力は弱くても心優しき8人の主人公たちが、少しの勇気と信じる力で、この国の将来を決める
“戦い”に挑んでゆく! 
(本の帯より抜粋)
 
小説の冒頭に出てくる人物が、「歌舞伎町で赤子を抱いてうずくまっている女性」で、その女性が探しているのが
「東京に出て連絡がとれなくなったホストの夫」ですから、これはもう不幸な話になるんだろうなぁと覚悟しながら読んだのですが、これが意外なことに、読んでも読んでもちっとも不幸にならない(笑)。
社会のダークサイドがたびたび口を開いて登場人物たちを待っているのですが、そのたびに読者の悪い予感を裏切って、思いもしなかった未来が開けていきます。
著者インタビューによると、
「これまで、『今、自分に見えること』を書いていたが、この作品は『今、自分が見たいこと』を書いた」
「リアリティの縛りを緩めて、いままで書けなかった2,3歩先の世界を描いた」
「登場人物たちにそれぞれ居場所を作ってあげたかった」
という主旨のことをおっしゃられていて、読んでいるときに感じた「どうしてこういう作品になったんだろう?」という疑問がすっと解消されました。
著者を含め、だれもそんなことはいっていないのですが、私にとって主人公の純平は、同じ吉田さんの作品の「横道世之介」の主人公・世之介を連想させる人物でした。
ぜんぜん似てないんですけど、ふたりとも欠点だらけなのに不思議な魅力があって、場の雰囲気を明るくする
力が強い。
好きなシーンのひとつが、純平が地元・秋田のデイケアに行く場面で、そこで純平が「お年寄りを楽しませよう」という姿勢ではなく、自分が心から楽しんで演芸会に参加することで、それを見たまわりの人間が明るくなるところがあるのですが、この場面(と、ある人物が同じ場所を訪れたときとの対比)があることで、ラストがとても説得力があるものになっていました。
また欠点といえば、本の前半で「○○○は決して見下されるような仕事ではない。でも、将来それ以上の何かを求めた時に必ず立ち塞がる壁になる」という文章があるのですが、それがまさか純平にとっての伏線になっているとは想像もしませんでした(笑)。
読者にとって一番魅力的な人物は、まちがいなく政治家秘書志望の敏腕マネージャー・夕子でしょう。
占い師に「将来、一流政治家になる男に出会う」と予言され、純平と出会い、いろいろあった挙句にコンビを組む、ある意味「三国志」の劉備(人望だけはある大将)と孔明(魔術師的な手腕を持つ軍師)を彷彿させる展開に、
最後までわくわくさせられました(笑)。

コメント

タカ

No title
タイトルが気になってました(^-^)でも、世之介もまだ読んでいないし~と、見送っていましたが、なんだか読んでみたくなりました(^o^)

KOR

No title
タカさん>このタイトルはインパクトありますよね。現代のおとぎ話として楽しんでほしいという著者の願いもこめられているそうです。

べる

No title
あっ、これ気になってました。でも予約に乗り遅れちゃったのでのんびり開架待ち。一年後くらいには開架に並ぶかなぁ。なかなか評判良いみたいですね~。

Angel

No title
悪い予感が裏切られるのは、楽しそうです(^w^)
“見たいこと”って、ある種のファンタジーですよね。
でも、こんな時代だから“見ていること”=リアリティより必要かもしれません☆

金平糖

No title
私も吉田作品だから覚悟しながら読んだのですが、、いい意味で裏切られました(*・∀-)☆
トラバさせてください(*^^*)

KOR

No title
べるさん>チェックされてると思っていましたが、開架待ちでしたか。
「世之介」好きのべるさんはきっと気に入ると思いますよ☆

KOR

No title
angelさん>おっしゃるとおりだと思います。けしてリアルを軽視するわけではありませんが、こういう世界も必要ですよね。

KOR

No title
金平糖さん>おっしゃること、よくわかります(笑)。トラバありがとうございます。

香津葉

No title
「読んでも読んでもちっとも不幸にならない。」
いいですねぇ。なんか、期待しちゃう^^
この本を始め、何冊か「読む本リスト」に入れさせていただきました☆
地道に読んで行きます♪
ちなみに、出産前からの読書録、感想を書き留めてはあるんだけど、全くアップしていない^^;
そのうちに…。

KOR

No title
香津葉さん>すごく暗い話になりそうなんですけど、ならないんですよね(笑)。
チェックしていただいてありがとうございます☆
香津葉さんの読書録、気長にお待ちしてます(^ー^)

pynchon0

No title
こんばんは...♪
そうなのですか???そんなこと、あるのかしら???
今の私には、必要な本かも(笑)。

時間を作って、読もうと思います。
紹介して下さって、ありがとうございます...:+:☆※*★.:+*``♪

KOR

No title
pynchon0さん>ありえなさそうでありえそうなところがおもしろいところだと思います(笑)。
機会があったらぜひ☆
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